中国周縁諸民族の連載は、西域・シルクロードの新疆からはじめましょう。
 「新疆」の疆という字の右側は「三山二盆」を意味しています。
 三山は一という文字で表され、アルタイ山脈、天山山脈、崑崙山脈を指します。二盆は二つの田という文字で表され、タリム盆地にあるタクラマカン沙漠とジュンガル盆地にあるコルバントンギュト沙漠の意味です。
 左側の弓と土という字は中央アジア諸国との境のことです。

 新疆ウイグル自治区は、面積が日本の4・5倍、中国全土の6分の1を占めています。しかし、新疆という文字の意味は、漢民族がつくった言葉で、未開の土地を切り開くという意味があり、沙漠周縁の各民族は「我々の土地を中国に奪われた」という受け取り方もあります。
 また、国際的には東トルキスタン(東方のトルコ系民族の国・土地あるいは地方)という言い方が定着していますが、新疆でこの言葉を使うと、ひどい目に会うのが現状です。

 地球上、もっとも海から遠い陸地でもある新疆の気候は厳しく、私は夏、トルファン地域で摂氏55度を体験しました。しかし、日本の高温多湿の気候と違って、乾燥しているので、日陰に入るととてもさわやかな感じになります。冬は北新疆のアルタイ地域で零下30度以上にまで下がります。そのような厳しい気象条件の下でも、辺境諸民族は数千年という悠久の歴史を刻んできたのです。

 シルクロードは長安から始まり、蘭州の河西回廊を経て、天山山脈南のオアシスルートか北のステップルートを通り、中央アジアを横切り、ペルシア、トルコやローマを往復するルートでした。そのルートには世界の五大文明といわれる中国文明、インダス文明、メソポタミア文明、エジプト文明、ギリシア文明がありました。

 西域では数千年前から、サカ、月氏、烏孫、羌、匈奴、漢、鮮卑、柔然、高車、悦般、吐谷渾、突厥、ソグド、チベット、モンゴルやウイグル系民族など、歴史に名が残る民族の活動がありました。

 その昔、この地域はカラハン王朝やジュンガリヤ王国が支配し、モンゴルやチベット、漢族などが絶え間なく侵入して、覇権を競い合いました。

 1955年から新疆ウイグル自治区と呼ばれるようになったこの地のトルコ系民族で800万人を超える人口をもつウイグル系民族のほかに満族、モンゴル族、回族、カザフ族、キルギス族、ウズベク族、タジク族、タタール族、オロス族、シボ族、ダフール族の12民族が居住しています。また、西域の諸民族は世界の5大宗教である仏教、キリスト教、マニ教、ユダヤ教、イスラム教を信仰してきました。
 モンゴル族はチベット仏教、オロス族はロシア正教を、そして、新中国以降、大量移住で新疆の最大民族になった漢族は仏教や道教を、一部はキリスト教の一派である景教を信仰しています。

 私たち日本人は、とかく「ロマンあふれる悠久の歴史」という側面を見がちですが、21世紀に生きるシルクロードの諸民族を是非、知ってほしいものです。

Copyright (c) 2004-2008 日本シルクロード文化センター All Rights Reserved