日本シルクロード文化センター主催
シルクロード講座とシルクロードサロン
第22回:2011年5月14日(土)13:00〜16:00
シルクロード講座:
「地球上に残っていた、こんな面白いところ」
          講師:古曳正夫さん(元ユーラシア関連月刊誌「ハルブーザ」編集長)
シルクロードサロン:
「キルギスの若者の挑戦 〜学生組織SIDOKの活動〜」
          報告:カンバラリエフ・ジャニベックさん(キルギスからの留学生)
場所=「みんなの広場」(小田急線和泉多摩川駅から歩いて5分)

第22回の様子(報告:周東)

5月14日(土)21名の参加で第22回のシルクロード講座&サロンが開かれました。

様子 講座:
「地球上に残っていた、こんな面白いところ」は、古曳さんが用意して下さったレジュメの年表や地図、図版を繰りながら、みんなで大月氏探検隊になって「大月氏はどこから来て、どこに消えたか」を探るというものでした。
レジュメからご紹介すると、
[1] 月氏の故地についての史記の記事
1.史記:
(1)はじめ月氏は敦煌と邱連山の中間にいた?
(2)月氏は強大な国で、匈奴の冒頓単干を人質にとっていた。
(3)後に冒頓単于が立ってから匈奴は強大になり、月氏を亡ぼした。
(4)武帝は張騫をつかわし、「戻ってこい。共に匈奴を討とう」と言わせたが、月氏は戻らなかった。
2.和田清:上記(1)は真実ではあるまい。強大な月氏がそんな貧しい所を本拠にするはずがない。
3.榎―雄の説
[2] まずは事実関係ーー年表と史記の記述の比較

 ソ連の考古学はマルクスの著述を裏付けるために発掘に力を入れた。特にスキタイの考古学をまとめあげた。
[3] パズルィク遺跡ーー図版:出土品
 榎:前3世紀に全盛をほこり、アルタイ山脈まで勢力をのばしていた。するとパズルィク遺跡は月氏のものではないか。ヘロドトスがいう「王族スキタイに反乱を起こした分離スキタイ」は、アルタイ地域に住んでいた。彼らがパズルィク人であり、月氏の祖先ではないか。(ルデンコも同説)
[4] エニセイ河上流「ミヌシンスク盆地」の人々
 榎:月氏が隣にいた時はアーリア系だったが、前1世紀一紀元1世紀をすぎるとアーリアとトルコの混血に変った。(前半:デスマスクを作って墓に置いた。後半:発掘で中国の宮殿が出てくる)→トルコ系の匈奴が来たから。
[5] バクトリアにて
 榎:月氏がバクトリア王国を滅ぼしたのではなく、来た時にはすでに滅んでいた。漢書の記事を検討すると、五翕(きゅう)侯は月氏ではなく、征服されたトハラの原住民だったと考えざるを得ない。大月氏は五翕侯を置いて支配していたが、紀元1世紀後半、クシャアン翕侯に亡ぼされた。
[6] ハルチャヤン遺跡、ダルヴェルジンテパ遺跡ーー図版:ハルチャヤンの中央広間の彫刻=泥で作って干して色を塗ったもの、月氏の頭部など
[7] イッシク古墳ーー図版:黄金人間の出土状況、銀皿の未解読文字
[8] ティリアテペーー図版:墓の平面図、断面図と被葬者の服装復元図。黄金に満ちあふれている。
[9] バンカー説
 月氏はアレクサンドロス大王の侵攻時に外部に押し出された遊牧バクトリア人で、故地に戻ってきた。
[10] クシャン朝
月氏と同じ人たちが作ったことになる。
[11] 加藤九祚先生、カラテパ遺跡を掘る。

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「大月氏」なんて歴史の教科書以来の名前しか覚えていない民族でしたが、モンゴル高原からインド北部にいたる広大な地域に足跡を残した民族の壮大な歴史の一端を覗かせてもらえました。改めて考古学は面白い、発掘も大変そうだけどやってみたいと思いました。

様子サロン
サロンはキルギスからの留学生ジャニベック君によるキルギスの紹介と、キルギスの日本語を学ぶ学生たちのボランティア団体SIDOK(Sutudents in development of Kyrgyzstan)の活動についての報告でした。
ジャニベック君は、キルギスのビシケク人文大学(会員の三井勝雄さんがかつて教鞭をとっていたところ)で日本語を学び、現在は国士舘大学に留学しています。写真をたくさん使って、きちんとした日本語で、キルギスの政治、文化、美しい自然を紹介してくれたあと、キルギスにいる時に参加していたSIDOKの紹介がありました。
SIDOKは、はじめは日本語を学ぶ学生たちのディスカッションクラブでしたが、自分たちにやれることを捜して、ボランティアグループを立ち上げました。現在会員は約30名、リーダーは半年毎の選挙で選んでいるそうです。
活動のひとつとして、肝炎の予防のための広報活動があります。日本に留学していた女子学生が肝炎にかかり、治療のための支援の輪が広がりましたが、残念ながら亡くなられたのをきっかけに、キルギスの子どもたちに肝炎のことをもっと良く知ってもらう活動です。
ボランティア団体のネットワークづくりも進めています。また、東日本大震災に際しては、チャリティコンサートを開き、短期間の取り組みにも関わらず大勢の参加があり、たくさんの募金を集めることができたそうです。

SIDOKが最も重点を置いている活動はスマイルプロジェクトです。
これは、毎年夏に児童施設など福祉施設で生活している子どもたちを対象に10日間ほどの合宿生活を送り、社会についての情報提供や精神的ケア、仲間意識を高めるなどの活動を通して、施設から巣立つ子どもたちの自立を助ける事を目標にしています。
参加者の選考は作文で行います。2010年の課題は、「私の夢」、「キルギスのために何ができるのか」、「自由テーマ」でした。90点の応募の中から選ばれた10人がプロジェクトに参加しました。
このプロジェクトに参加してから、進学を志したり、自分の道を見つけて行く子どもたちが生まれているそうです。

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ジャニベック君が2010年のスマイルプロジェクトの報告集を持ってきてくれましたが、とても充実したプログラムです。まだ残部がありますので、お読みになりたい方はご一報下さい。(silkroad-j@ef.lomo.jp)
日本にはSIDOKの活動を支援する「SIDOK支援会」があります。主に彼らの活動資金を援助し、活動の様子を知らせています。こちらのお問合せも上記アドレスまで。
また、キルギスに旅する時は、SIDOKにお願いすると旅行の手配や通訳をやってくれます。私も3年前のキルギス旅行ではジャニベック君たちにお世話になりました。機会があれば、是非キルギスの元気のよい学生たちと交流して下さい。

参加者からは
古曳さんの講演は、長年シルクロードに関心をもった人の薀蓄あるものと興味深く拝聴しました。
ジャニベックさんの真面目な講演、大変好感が持てました。何年日本語を勉強したのかわかりませんが、我々が長年外国語を習っても 一向ものにならないことと比較すると頭が下がります。
との感想が寄せられています。

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